遺伝子治療は、「ヒトの疾病の治療を目的として遺伝子あるいは遺伝子を導入した細胞を生体に投与すること」と定義されます。1990年に米国で先天性酵素欠損症の患者に世界で初めて遺伝子治療が施行されて以来、欧米諸国を中心に様々な遺伝子治療の臨床応用が試みられています。現在では、施行された遺伝子治療プロトコールはすでに600を越えており、実際に遺伝子を導入された患者は5000人以上に達しています。しかし、欧米諸国に比べて、我が国の先端医療開発の現状はかなり遅れているといえます。その一因として、我が国の大学機関における先端医療開発のための人的・物的支援体制の不備があげられます。米国のいくつかの大学機関においては、遺伝子医療や再生医療のためのGood Manufacturing Practice (GMP)規格に基づいた臨床レベルの生物製剤の調製、準備が可能となっており、それらの施設を中核としたセンター構想が具体化してきています。
 岡山大学医学部附属病院(現 岡山大学病院)では1996年1月、学内に遺伝子治療臨床研究審査委員会を設置し、21世紀型医療において重要な位置を占めるであろうと期待される遺伝子治療研究を推進してきました。1999年3月には、日本で初めて非小細胞肺がんに対してp53がん抑制遺伝子を用いた遺伝子治療の臨床試験を開始し、また2001年3月には進行前立腺がんに対する自殺遺伝子治療の臨床研究も始まっております。さらに、再生医療の領域でも、複数の細胞治療において臨床プロトコールの準備が進められております。しかし、遺伝子医療や再生医療などの先端医療は、一般的な薬剤の臨床研究や臨床試験と比べて、その特殊性ゆえに同一の規格で推進することは困難であります。設備的には、遺伝子材料や細胞材料などを安全かつ機能的に扱う場が必要であり、治療時および治療後の管理においては、バイオハザードを安全、迅速に処理するシステムを構築する必要があります。また、臨床応用で得られた貴重なデータを基礎研究にフィードバックし、さらに先進的な基礎技術を応用する双方向的な研究者間の連携が重要であります。そのためには、治療法の科学的・倫理的妥当性について検討しつつ臨床研究を進める支援体制が望まれます。
 そこで、先端医療プロジェクトを国民に還元できる一般医療へと発展させて行くため、さらには国際的に競争しうる戦略的プロジェクトとして展開して行くために、個別講座を越えた横断的協力体制の中核としての「遺伝子・細胞治療センター」が設置されました。今後は、中国・四国地区における先端医療開発拠点としてその実績を加速的に集積するとともに、我が国の先端医療の実用化に大きく貢献することが期待されます。
   
 
 
 
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